このコーナーでは、園芸世界(改良園刊)に隔月で連載しているエッセイ「花ひと模様」のバックナンバーを、改良園のご了解を得て順次掲載しています。転載はご遠慮ください。 改良園のホームページはコチラ
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<第15回> | <第16回> |
<第13回> 私のハニカミ王子 | <第14回> 悪魔が来たりて『庭いじり』 |
<第11回> 花の宴・人の縁〜番組の裏側で(2)〜 | <第12回> ハッピーバースデー |
<第9回> 「どうぞお掛け下さい」 | <第10回> スウィート・メモリーズ |
<第7回> どんな花が好きですか? | <第8回> 高野の時音 |
<第5回> 花の宴・人の縁〜番組の裏側で(1)〜 | <第6回> 秋風の吹きのこしてや… |
<第3回> 美ら島(ちゅらしま)散歩 | <第4回> 春に咲くターバン |
<第1回> ハーブって何ですか? | <第2回> 星の輝き |
園芸店や植物園、講師の方のお庭で番組の撮影をすると、その中で使った植物はいろいろとさわられることになります。剪定されたり、鉢に植え付けられたり、株分けされたり…。つまり、その後園芸店では売ることが出来なくなります。ほとんどの場合は、番組制作会社が買い取りますが、いただいて帰るのはいつも私です。講師の先生の私物は、気前よくいただける場合もあり、とても嬉しいものです。 アルゼンチンの星 その中で、とても綺麗な青い花が、庭のあちこちに咲いているお宅におじゃました時の事です。先生は「毎年何もしないのに綺麗に咲いてくれる、すこぶる丈夫な植物だ」とその花について教えて下さいました。それが、私とイフェイオン(ハナニラ)との出会いです。低い草丈で、原種はアルゼンチン原産のその花は、まさに庭に光る青い星に見えたものです。 その日のテーマは「園芸・幼稚園編」と「園芸・小学校編」という初心者向きの植え替え作業だったのですが、私は、使った植物より「アルゼンチンの星」が気になって気になって仕方がありません。休憩の時にはじっくり見に行き、「和名のハナニラは花がニラの香りを放っているのか」確かめにいきました。 そんな私を後ろから見ていらした先生は、「葉をちぎって匂いを嗅ぐと、ニラに似ているよ」と教えて下さり、微笑みながら「これは球根だから少し持ってかえったら」と4,5球堀り上げて花のついたまま袋にいれて下さいました。なんだか、おねだりしたようで恥ずかしかったのですが、有難くいただいて帰りました。 さっそく家で鉢に植え、「可愛いな、可愛いな」と毎日見ていましたが、花がなくなると水も忘れがちで本当に可哀想でした。でも次の季節になると、また芽を出し元気に葉を展開し花をつけてくれます。うちに来てから何年たったでしょうか?とても丈夫で毎年忘れた頃に、輝く青い星は私の心を魅了し続けています。 アルプスの星 私は、映画やドラマなどは詳しくないので、時々友達の話しにもついていけないことがあります。詳しくないと書きましたが、本当はあまり興味がないと言ったほうがいいかもしれません。想像力が乏しいのか、感情移入が出来ないのか、とにかくあまり得意ではないのです。でも「実話」となると話は別で、ドキュメンタリーや実話を映画やドラマ化したものには大変興味があって、涙をポロポロ流して見てしまいます。 高校生の時、テレビで「サウンド・オブ・ミュージック」の映画を見ました。オーストリアのザルツカンマングートの空撮から始まるそのミュージカル映画は音楽のすべてが名曲で、実話をモデルにした明るくもせつない物語。美しい風景、異文化へのあこがれ、すべてが私を名作に引きずり込んでいきます。同じ経験をされた方も多いかもしれませんね。すばらしい曲の数々の中でもトラップ大佐が歌う「エーデルワイス」は美しい旋律で、ずっと憧れていたスイスの上品で華麗な花にピッタリ。今でも大好きな曲の一つです。 それから10年程たった夏、オーストリアとスイスに行く機会がやってきました。父の知人のオーストリア人とスイス人のお宅に遊びに行く事になったのです。十数時間も飛行機に乗ってのヨーロッパ行きは窮屈でとても疲れましたが、あの風景に実際出会えると思うと、心はいち早く到着地へ飛んでいました。 オーストリアの知人はサボテンに大そう興味があるらしく、ビニールハウスを庭にもっていて、かなりの数のものを育てていました。やはり、異国の植物に魅せられていたのでしょう。大変自慢なようで、人が訪ねて来るたびにハウスを紹介していました。それはいいのですが、私はエーデルワイスが見たくてしかたがありません。なにしろそれまで、本の挿絵でしか見たことがなかったのですから。 オーストリア滞在3日目に、グロースグロックナーという山へ行く事になりました。 「アルプスの星」エーデルワイスは見ることができるでしょうか?前の晩はドキドキして眠れなかったのを思い出します。当日の空は晴れわたり、山に行くには最高の日和です。車での移動ですが、飼い犬のコーラまで乗り込んできました(家族の一員ですから当然なのですが)。 出発してから2時間くらいで山道にさしかかり、幾度も急なカーブを曲がりながら登っていきます。道端には高山植物が見られるようになってきました。ベル型の青紫の花や黄色の小さな花、白く可憐なキク科の花、アザミそっくりな赤紫の花などさまざまなお花畑です。特に群生しているアルペン・ローゼにはため息が出ましたが、なかなかエーデルワイスに挨拶をすることはできません。「咲いてないのかなあ」とイライラして来た頃には、車でいける一番上の広場に到着しました。 そこではたくさんの観光客が展望台からの壮大な景色を楽しんでいました。そして、お約束の土産店とレストハウスも大繁盛です。私も、土産店を覗いてみることにしました。そこには、透明のガラスのようなものに閉じ込められたエーデルワイスが、壁掛けや文鎮、コースター、キーホルダーなどさまざまなグッズになって売られていました。その花を見てビックリ!花びらにうぶ毛のようなものが生え、白というよりはクリーム色にちかくてちょっとグロテスク。 「これが、あこがれの『真白く清い』エーデルワイスなの?!」しかも、土産物屋のオーストリア人のおじ様の話によると、白いところは花びらではなく、真ん中の小さな黄色い部分が花なんですって!葉は銀白色で綺麗だったけど、ショックは大きかったのです。 世の中イメージだけに酔いしれていた方がいい事もあると教えてくれたアルプスの星でした。 クリスマスの星 「クリスマスの星」と言うのは勝手に私が心の中で思っているだけなのですが、ご想像の通り、ポインセチアの事です。11月に入ると早くも園芸店の店先に並ぶポインセチアは、クリスマスを彩る、燃えるような赤い星です。最近では、花形も色も大きさもさまざまなものが出てきて、一概に赤い星とはいえなくなりました。クリーム色やマーブル、紫、レモンイエローなど好みの珍しいものを選ぶ事が出来ます。 もともとメキシコでポインセットというアメリカ人に発見され、そこから名づけられたのだそうです。番組の中でポインセチアの挿し木をしたことがありましたが、挿し穂を作る時に切ったところから白い液が…。「かぶれたらどうしよう?」と心配になった事を思い出します。 インディアンたちは、その白い汁液を解熱剤として使うなど、医療用に使っていたという説もあります。ということは、ポインセチアもハーブなのでしょうか?アメリカからヨーロッパに渡ったポインセチアは「キリストの血の色」ということで、クリスマスに飾られることになったんだそうです。時と場所が変わると、植物の使い方も色々なんですね。 鉢植えのコンパクトなものが主流の日本にあって、沖縄では一般家庭の庭や林の中に生えている事があります。それも私の身長よりはるかに高い大きなものです。初めて見た時には目を疑ったほどです。 和名は「猩猩木」ですが、昔中国に酒好きで朱赤の顔、真っ赤な髪の「猩猩」という獣がいて、それに似ているからと名づけられたそうです。私の周りにも「猩猩」の様な人いますけど…ポインセチアには似てないな。 今日も輝く花の星達に心を奪われ、その前では必ず立ち止まってしまう私です。 |